健康法の迷信、実例集
だまされる人が悪いのか? 医学的に間違っている、または誤解し易い健康法を医師以外の人が広めているのが数多く見受けられます。ご注意ください。
「お婆さんは背中が曲がってみっともない。」と心ない事を家族に言われて病院に来る人が多くいます。お年で背骨が曲がっているのに背筋を無理に伸ばしてはいけません。病院ではフレキション(屈曲)ブレースと言う腰を曲げたコルセットを作ります。 背骨の中には脊髄神経が縦に走っていますから、腰の骨が潰れて曲がっているのを伸ばすと神経が圧迫されて足が痺れてしまうのです。
これは77歳女性の胸椎のMRI画像です。これで背中を伸ばせば神経がつぶされてしまいます。骨を強くする治療をして、これ以上変形が進まないようにします。
腰を少し曲げて、手押し車を押して歩くのが安全です。 背中をピンと張って歩けるのは背骨に異常のない人の場合です。
「手足から血が出たら付け根を縛る。」と思っている人がまだまだ沢山います。血液は心臓から動脈で送って、静脈で帰ってくるのですが、動脈圧より高く締めつければ血は止まります。ところが普通にやれば静脈圧と動脈圧の間の圧になるので血液は送られただけで帰らなくなりますから、縛るとよけいに血が出るのです。
静脈注射や血を採る、採血の時に腕をゴムのチューブで軽く縛ります。すると縛った先の静脈が浮き出ます。これは静脈圧よりも強く、動脈圧よりも低く縛るからです。怪我の時に軽く縛れば同じ理屈で血はよけいに止まらなくなります。
動脈圧よりも強く圧迫したら痛みが強く、15分くらいしか我慢できません。救急隊員でも難しい事です。縛って止血するには整形外科では手術の時に専用の空気で膨らませる機械(ニューマティク・ターニケット)を使って行います。さらに、1時間以上行うと神経麻痺や最悪では壊死を起こして切断の危険がありますから時間を厳密に計りながら行っています。戦場で、命に関わる場合、モルヒネなどを使いながら手足の切断覚悟で行うのが付け根を縛る方法です。
足は心臓から一番遠い場所なので、血流を悪くすると強い悪影響があります。タバコは慢性動脈閉塞症やバージャー病の原因になります。血流が悪いと足の色がどす黒く、冷たくなります。
この方は、48歳男性で母趾の先の皮膚が潰瘍になっています。
禁煙により治癒しました。
「足は第2の心臓」とか言いながらプカプカ吸っている人もいます。日本のほとんどの健康記事は タバコについて無視しています。タバコは足に強い悪影響があります。ところが 「タバコは急には止められませんネ.......」「30年も吸っているからネ.......」と言う人がたくさんいます。「あの人はヘビースモーカーだったのにピタリと止めたから偉い。」は逆です。少しずつタバコを減らすのは、急に止めるよりも辛いのです。すぐにピタリと止めましょう。
「ストレスがあるからタバコもしょうがない。」は見苦しい言い訳
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昨年、あるテレビ番組で某医学部教授が、「私はストレスがあるのでタバコを吸っています。」と堂々と言っていました。タバコが体にとってストレスなのに、タバコを吸えばストレスが減ると考えているのでしょうか? 喫煙はストレスですから、「ストレスが有るから禁煙する。」のが科学的です。
あるヘビー・スモーカーの医師は患者さんには禁煙指導をしています。知識がある医師でもタバコを止められないほど習慣性が強いのですから、禁煙は本当に難しいことです。タバコを止められない医師は、お気の毒ですが恥を忍んで隠れて吸うのが正しい姿です。
両方の手首を骨折した患者さんが来ました。両手首の骨折は珍しいので原因を聞くと、「後ろ向きで歩くと体に良いと聞いたので..........」あまりにひどい健康法にあきれてしまいました。
「骨粗鬆症になると骨が潰れて腰の痛みが出ます。カルシウムが不足すると骨粗鬆症になります。ですから皆さん牛乳を飲みましょう!」この話は正しいのですが、牛乳は優れた飲料ですが、運動しなければ骨には着きません。 牛乳をたくさん飲んでも運動しなければ、よけい腰の痛みが出ます。楽をして健康になろうとしてもダメですね。
小さくて湾曲した爪切りが人気があります。巻き爪で爪の角が軟部組織(肉)に刺さって痛いからと肉の中に先を入れて、角を切っている人が多く見られます。爪の角を切ると気持ちから良いのですが、次に伸びてくる爪がさらに巻いてしまいます。
巻き爪では爪が厚いので強力な爪切りが必要になるのですが、使い方を間違えないようにしましょう。
指の長さは外反母趾の主な原因ではありません。この写真のように外反母趾でも第2趾が長い人は多くいます。外反母趾の原因として第2足指が短いからと信じている人は、親指と第2足指の間に入れるゴム、つまりトゥー・セパレーターを入れれば良いと考えがちです。指同士がぶつかる痛みに対してはトゥー・セパレーターが有効ですが、外反母趾の原因は開張足です。開張足を治さなければ外反母趾は治りません。
膝の痛みをとる中敷き.........悪い靴に入れても無駄
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日本人は膝がO脚の人が多く、中高年になると膝の内側の軟骨が減ります。そこで、靴の中に外側が少し高くなった中敷きを入れると、膝の内側に集中していた重さが一部外側に移動するため痛みが減ります。外側楔状足底板と呼び、病院では医師が処方して作ることもあります。市販品もあり膝の内側の痛みには効果があります。
この写真の靴はアッパーはまだ綺麗で履けそうな靴ですが、こんなに踵が磨り減っては、膝がO脚になります。ひどいのは踵の細いパンプス、スリップオンに外側楔状足底板を入れても効果は期待できません。 ところが、一部の靴をチェックしない医師は、患者さんは膝に良くない靴に中敷きを入れてしまいます。踵をしっかり保持する紐靴に入れましょう。
一番良いのはドイツのマイスターが行う方法、アウトソール(靴底)の形も考えて整形靴に合わせた専用のインソール(中敷き)を作ることです。 整形靴ならば靴底が減っても交換が出来るので経済的です。
「複雑骨折は複雑に折れている。」のでは無いという複雑な話。
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新聞報道などで「XXX選手が複雑骨折」と書かれます。医学では骨が複雑に折れているのを「複雑骨折」とは呼びません。複雑骨折は皮膚を破った骨折を呼びます。皮膚を破っている場合は骨に細菌が入り、骨髄炎になる可能性が有り、治療には厳重な注意が必要です。治療が難しいためドイツ語ではコンプレキツィオン・フラクトゥールとされ、直訳で複雑骨折と呼ばれました。
複雑骨折は皮膚を破った骨折です。誤解を防ぐためにこの言葉はあまり使わない方が良いでしょう。皮膚を破った骨折は開放性骨折と呼び、皮膚を破っていない骨折は非開放性骨折と呼びます。細かく折れている骨折は粉砕骨折と呼びます。整形外科医どうしでは「この患者さんはオープンです。」と使います。複雑骨折と言わなければ複雑でなくなります。
病院ランキングが流行っています。患者さんには深刻な問題です。医師や家族が病気になった時にはどうするでしょうか? 病院ランキングは参考になりません。実を言えば、「病気別の医師ランキング」が欲しいところです。入れ物よりも中身が大事です。病院、つまり入れ物ではなく、中身、つまり医師の腕が重要です。某雑誌の「手術数から見た医師ランキング」は説得力が有ります。手術の数は技術レベルとほぼ一致します。内視鏡検査なども同様です。私や家族が患者となり、手術が決まった場合には手術例の多い先生にお願いしています。
さて、診断がつかない時はもっと複雑です。診察能力は点数をつけ難いからです。能力の優れた医師でも初めて診る例は判り難いものです。その分野の論文を数多く書いている先生は、その分野では信頼できます。
こうした話は難しい手術とか、診断が難しい病気の場合だけで、普通の病気では御近所の気軽に掛かれる先生が良いと思います。
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