1.はじめに
マチワイヤ (Machiwire : tama-medical.com) は爪矯正用の形状記憶合金ワイヤである。1997年、町田は形状記憶合金による爪矯正を発明した。(特許第2648735号) 陥入爪はnail plate (爪甲)一部が軟部組織に刺さることで、爪による物理的な刺激により、炎症、感染を生じる。巻き爪が陥入爪の誘因なので、爪を平らにして爪を伸ばせば陥入爪は生じない。2009年現在、全国で950の病院、医院がマチワイヤを使用する施設のリストに掲載されており、爪矯正に納得した患者さんを治療している。
爪矯正は注意して行えば極トラブルは希で、極めて患者満足度が高い治療法である。
2.マチワイヤの材質
マチワイヤはニッケル・チタニュウム形状記憶合金である。ニッケルは強い発癌性が有り、歯科材料として使われている材質で作るよう特注している。歯科では歯列矯正に形状記憶ワイヤが使われているが、爪に用いる場合は強く曲げるので、遙かに機械的な条件が厳しく、折れる確率が低くなるように材質の改良を重ねている。
3. インフォームド・コンセント
治療前に患者さんに良く説明します。
「陥入爪の治療は一般的に手術と爪矯正があります。爪矯正は費用が掛かります。」
「爪矯正は巻き爪を平らにする技術です。マチワイヤによる爪矯正については3つの問題があります。 まず第1は時間が掛かることです。爪が伸びたら1から2ヵ月ごとに入れ替える必要があります。爪矯正による痛みはありません。運動制限もありません。どの程度まで爪を平らにするかは患者さんの仕事、運動、靴によりますから、御自身で決めていただきます。 第2は健康保険が適用にならないので費用が掛かります。 第3は巻き爪は再発する事です。爪矯正により爪を平らにしますが、原因を完全に取り除くことはできません。再発までの期間は生活習慣や体質により違います。例えば指をぶつけたり、ハイヒールを履けば早く再発します。健康的なヒモ靴に足に良く合ったでインソールを入れ、一日1万歩以上歩けば再発は少なくなります。また、外反母趾や扁平足などでは、指先に力が掛からないので、巻き爪になりやすいです。」
以上はネットなどの情報を読んで来院なさる患者さんの場合は良く理解してくれる。通常の診療を希望して御来院した場合には、良く考えてから後日来院していただく。
4. 治療前の評価
陥入爪の治療選択の第1はthorn(トゲ)の深さである。マチワイヤによる陥入爪の治療は、爪の状態により補助療法を追加する。爪矯正でも難治例が希にあり、特に過去に部分抜爪や鬼塚法、フェノール法などの手術を受けていて、炎症が強い例は難しい。 陥入爪はnail plate の一部が切り残され、thorn(トゲ)が軟部組織内に残っている。肉芽腫があれば、その真下に最も原因となるthornが存在する。その長軸上の位置が、例えば指の先端から8mmであれば、足指の爪は月に約2mm伸びるので、爪矯正を加えながら4ヵ月間待つことができればthornは軟部組織から先端が出て寛解する。 巻き爪のためにthornの深さが深い場合には、強い炎症があり、特に膿が閉鎖腔から出られない場合には重症になる。
nail plate 先端の白いfree edgeが1mmでもあれば、マチワイヤを入れる事ができる。
4. マチワイヤの挿入
爪矯正では爪の物理的な強さと矯正力の適度なバランスが最も難しい。
マチワイヤは0.25mmから0.05mm刻みに8種類あり、注射針で爪に穴を開け、注射針でわずかに矯正力を加えて爪の弾力、硬さ、脆さを判断して選択する。官製葉書くらいの硬さの爪では0.45mmを目安にしている。軟部組織内に長期間置かれたnail plate の部分は特に軟らかくて弱いので、0.25mm、0.3mmなどの細いマチワイヤを用いる。
5. 併用療法
肉芽腫には2%のキシロカインをたらし、米粒大の硝酸銀の粒を置き約20分間待つ。痛みが減るので、軟部組織内の爪のフチを探り浅ければ米粒大の綿花を摘める。しばらくして、可能であれば tube splinting (ガター法)を行う。tube splintingは、点滴チューブを2cm位に切り、縦に裂いてnail plate の縁に差し込む。深い場合には指神経ブロックを行う。
6. トラブル・シューティング
時にマチワイヤの2週間以内の早期脱落がある。早期脱落の経過は1.爪が割れる 2. 爪からマチワイヤが抜けてしまう。 3. マチワイヤが折れる の3型がある。 爪が割れる場合には、矯正力を弱めるために、マチワイヤを通す穴を、nail plate の中央に位置する。また、開放創のある場合には生体内使用の認められている外科用接着剤(アロンアルファA 三共)を厚めに塗る。炎症が無ければ、市販のマニュキュアを患者さんに1週間に1回程度塗ってもらう。マチワイヤが抜けてしまうのも接着剤、マニュキュアで対応する。
マチワイヤが折れるのは形状記憶合金の特性であり、開発初期から材質を変更して、その確率はかなり少なくなったが2%くらいに見られる。対策は爪に穴を開ける時に注射針のベベルの先で、寝かしてeccentric hole (偏心穴)として、マチワイヤに対する応力の集中を減らす。穴を中心部に開けて、矯正力を弱める。または、1段階太いマチワイヤを用いる。 マチワイヤ + tube splinting で痛みが取れない時には、軟部組織のさらに深部に遊離した爪が残っている事があるが、千例に1例と極めて希である。 爪母を切除する陥入爪手術を受けている例では、爪母にthornが残っている事があり、希に再度の爪母切除の必要がある。
7. 術後の説明
「痛みが減らなければ来院してください。痛み無ければ、マチワイヤやチューブが外れたら来院してださい。マチワイヤが外れて立った時にはニッパーなどで簡単に引き抜けます。痛みが減ってくれば、爪が伸び時、通常1-2ヵ月後に御来院ください。」としている。