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町田英一,日本整形外科学会雑誌(抄録),2000

陥入爪、弯曲爪に対する爪矯正
Orthonyxie for ingrown toenail and incurvated nail.
高田馬場病院整形外科 町田英一

【目的】陥入爪、弯曲爪を形状記憶合金プレート、超弾性ワイヤーを主とした爪矯正治療を評価する。

【対象】】陥入爪は爪の角が軟部組織に刺さって痛み、炎症がある例、弯曲爪は爪が横方向に弯曲して痛み、炎症がある例とした。全例足の母趾で、陥入爪は120例186足、男性55例、女性65例、12歳から82歳、弯曲爪140例265足、男性46例、女性94例18歳から85歳である。

【方法】形状記憶合金プレート(多摩メディカル社)は幅2mm、記憶回復温度は摂子45度で外科用接着剤アロンアルファA(三共製薬)で爪甲の近位部に横方向に貼り、患者が一日に2-3回、5-10秒間、家庭用のヘアー・ドライヤーで温める。外科用接着剤は生体内使用が可能であり、創部に流れ込んでも問題は無い。深爪後の陥入爪では、まず形状記憶合金プレートを貼り、爪の近位部を矯正して、先端の角にはcotton packing、硝酸銀処置を行う。
こうして爪の先端が軟部組織から2mm程度伸びるまで待ち、超弾性ワイヤーを刺入する。爪矯正用の超弾性ワイヤー(多摩メディカル社)は常温で直線であり、回復力は曲げても一定であり、曲げたまま数ヶ月経過しても衰えない。爪の先端に横に並んだ2つの穴を注射針で開け、超弾性ワイヤー1本を横方向に底側-背側-底側に逆U字型に刺入する。1から2カ月間後に爪を切る。1-2カ月の矯正後に爪が伸びるのを待ち、再度近位に刺入する。

【結果】全例保存的に治癒した。 形状記憶合金プレートでは時間がかかるのが欠点であった。足指の爪は手よりも成長が遅く、1カ月に約2mm伸びる。そこで、例えば6mm深爪をしていると3カ月かかる。また、軟部組織内にある爪は割れ易く、割れたところで激しい炎症と肉芽形成を繰り返すことがあった。
 超弾性ワイヤーにより、爪の薄い例では即座に矯正され始めて、痛みが消失する。この治療による重大な合併症は無かった。2例に爪の穴からの横割れが生じたため爪が伸びるまで使用を延期した。、1例が隣接趾への刺激があったためワイヤーの長さを短くした。矯正による痛みは無く、爪縁の軟部組織が除圧されて痛みが軽快した。Trumpet nailでは90度以上に弯曲した爪縁を矯正して起こしてくる時に軽い痛みがあった。

【考察】爪は軟部組織が指の背側に上がってくるのを押さえる重要な機能がある。陥入爪の根治手術として爪母から爪の幅を狭くする手術が行われている。爪母を削ったり、フェノールにより爪母細胞を焼いても、変形して爪が生えてくる事も多い。また、手術で炎症を消退させることはできるが、整容的ばかりではなく、機能的にも問題がある。爪の幅が狭いと数年後には指の幅も狭くなるのが観察される。
 爪の矯正治療(Orthonyxie)はプラスチックや金属の板バネを接着剤で貼る方法や剛性のワイヤーを爪縁に掛けて引く方法が広く行われているが、装着が煩雑であったり、矯正力が持続できない等の欠点から、重症例に対して充分な効果は得られていない。形状記憶合金プレートは常温では爪の弯曲に合わせて容易に貼ることができ、温めるたびに矯正力が回復するので数ヶ月間にわたり使用できる。超弾性ワイヤーは弯曲を強くしても一定の弾力が長期間持続する。深爪の例には形状記憶合金プレートを貼り、爪の先端が軟部組織から出たら超弾性ワイヤーを逆U字型に刺入して用いることで比較的短期間で治療できる。
 両金属ともニッケル・チタニウム合金であり、特殊な結合であるため溶出は検出不能なほど極く微量で、少量の使用では悪影響は無い。歯科インプラントとして生体内で使用されていることからも爪に貼ったり、刺入しても金属毒性は無いと思われる。

【結語】 陥入爪、弯曲爪を形状記憶合金プレート、超弾性ワイヤーを主とした爪矯正治療を行い良好な結果を得た。

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