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町田英一,日本整形外科学会雑誌(抄録),S429,2000

Chevron Osteotomyの治療成績
日本大学整形外科 町田英一

Key words : Hallux valgus (外反母趾) Chevron osteotomy (chevron骨切り術) 

【目的】ChevronはV字型の徽章のことで、上下方向の安定性が良く、骨切り部の接触面積が広いため骨癒合が早いのが利点である。変形が軽度から中等度の外反母趾変形には第一中足骨遠位の骨切り術(以下Distal chevron)、 高度な例では近位の骨切り術(以下Proximal chevron)を行っている。術後成績を検討する。

【方法】Distal chevronは82例142足、Proximal Chevronは43例61足であり、そのうち片足づつ両術式を行ったのは8例である。年齢は14から78歳、平均56歳、経過観察期間は3カ月から6年間、平均3.2カ月である。
 Distal chevronは腰椎麻酔または足関節ブロック下に電動または気動式のマイクロ・ソーを用いて側面から見てV字型に骨切りして横方向にずらし、2mmX40mmのPLLAピンで固定する。 Proximal chevronは腰椎麻酔下に遠位軟部組織、関節包を母趾第2趾間で切離し、第1中足骨近位で側面から見てV字型に骨切りして横方向にずらし、同時に母趾の回旋変形も完全に矯正し、2mmのK-wire2本で固定する。最近の5例は2mmX40mmと2mmX100mmのPLLAピンで固定した。(後者のピンは特注品) 両術式とも関節包は母趾の回旋変形を矯正するためにL字型に切開し、骨切り術後に強固に縫合する。
 外固定はDistal chevronは1週間、Proximal chevronは2週間、体重負荷はDistal chevronは2週間、 Proximal chevronは4週間で開始する。、約20mm厚さの特注の中敷きを用いる整形外科的調整靴(orthopaedic shoes)の日常的使用を指導し、室内でも中敷き調整をしたサンダルを推奨する。パンプスなどの「おしゃれ靴」(dressy shoes)の使用は最小限とする。

【結果】Distal chevronは外反母趾角は術前平均33度(27から42度)、術後平均22度(10から26度)、1年以上経過した例では平均25度(10から32度)と軽度の再発が見られる。Proximal chevronは外反母趾角は術前平均41度(35から48度)、術後平均20度(10から25度)、1年以上経過した例では平均23度(10から32度)である。母趾の知覚鈍麻が3例に見られた。深部感染、骨頭壊死、骨癒合不全、内反母趾などの重篤な合併症は無かった。またPLLAによると思われる炎症や遅延骨癒合もなかった。症状は全例軽快し歩行距離が伸びている。

【考察】外反母趾の痛みは母趾MTP関節の滑液包炎ばかりでなく、骨棘による趾神経の絞扼、足底の胼胝、母趾MTP関節やリスフラン関節の変形性関節症、内反小趾など様々な原因から痛みを生じる。近年の女性の社会的進出により治療の必要が高まっている。
 外反母趾手術はQOL向上が目的なので、絶対適応は無く、常に社会的適応である。そこで術式選択の条件は、症状に的確に対応できる事、安全で、麻酔や手術の侵襲が少なく、術後の後療法が短いなど患者の負担が軽いことである。できれば内固定具の抜去の必要が無い方法が好ましい。
 また、患者の手術に対する期待は「ハイヒールが履きたい。」「色々な形の靴が履き
たい。」といった足の健康にとって好ましくない場合もあるので、靴に関する情報提供も充分に行う。外反母趾は進行性の疾患であり、手術が適切に行われても術後の靴の調整が悪ければ再発の確率は高まる。
 外反母趾は単に第一中足骨から母趾のfirst rayの変化では無く、足の縦軸、横軸アーチの破綻からくる開張足が原因である。著者の外反母趾手術の目的は「手術により靴の選択の幅を広げる。」のではなく、「最小限の手術を行い、整形外科的調整靴と併せて症状を軽減し、変形の進行を遅らせる。」事である。こうした詳細はあらかじめ患者さんに知らせインフォームド・コンセントに基づいて治療をする事が重要である。

【結論】Distal chevron osteotomy、 Proximal chevron osteotomyを行い良好な結果が得られている。両術式ともPLLAピンにて充分な固定が可能である。