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2012年11月30日 ASMA 社団法人 形状記憶協会 神戸市 にて発表しました。 

巻き爪矯正具における形状記憶合金と爪のインターフェイス 抄録

高田馬場病院 整形外科 町田英一

 ヒトの爪に外力を作用させる方法について述べる。爪を矯正するには適度な強さの矯正力を適切な位置に長時間持続して加える必要がある。マチワイヤとマチプレートが最も効果が強く容易に実施できると考えている。

巻き爪は主に足の母趾に発生し爪の縁が軟部組織に刺さると爪周囲組織の炎症、発赤を生じ、さらに膿が貯まり強い痛みが出る。著者は1996年、形状記憶合金を用いた爪矯正を開発した。それまでは、多くの医師は「爪を剥がさないと治らない。」と考え、爪を全部剥がす全抜爪、爪の縁を剥がす部分抜爪を行ってきた。爪を剥がせば爪が刺さらなくなるので痛みは数時間で消失し、長年に渡り痛みに苦しんできた患者は医師に感謝する。ところが、爪を剥がしても再発する例が多く、数ヵ月毎に爪を剥がしている患者もいる。そこで、爪を生えなくする色々な手術が行われている。爪の1/3を切り取り、爪の根の爪母細胞を取り除くために、爪母を削る、フェノールを塗る、レーザーで焼く、などの工夫が行われている。著者は爪矯正が無効な極めて稀な例にのみ手術を行っている。

 陥入爪手術は爪が再び生えてくる再発が多く、成功しても爪の幅が狭くなる。爪は手足の運動器の一部であり、重要な機能を果たしている。爪の幅が狭くなると指先に掛かる力が分散されず、強く握る、足で踏ん張る動作が犠牲になる。

古くから手術以外の治療法が数多く研究されており、爪に接着剤で弾性プラスチックを貼るBS ブレース (B/S spange ドイツ 1987)、硬性ワイヤによる爪矯正(VHO ドイツ 1988) などが主に非医師により広く行われている。こうした古い保存療法は軽症例には有効であるが、あまりに効果が弱いために非医師は軽症例を治療して、難治例は医師に紹介するので、結局、重症例を扱う医師には手術だけが有効な治療であった。 著者は1996年に形状記憶合金を用いた爪矯正を開発した。マチワイヤによる爪矯正は適切な位置 (ネイル・プレートの弯曲部)に強い矯正力を、長期間持続的に維持でき、母趾ばかりでなく小趾の指まで適応になる最も有効な治療法である。そのため、陥入爪手術の適応はゼロではないが、稀になりつつある。その後、マチワイヤは数年で全国の医師に広まり、陥入爪に対する第1選択の治療法となっている。陥入爪の病態は複雑であり、症例に数種類の治療法を組み合わせて行う必要がある。

爪を矯正するには適度な強さの矯正力を適切な位置に長時間持続して加える必要がある。3種類に分類できる。

1. 爪の表面に貼り付ける方法としてBS ブレース、マチプレートがある。BSブレースは弾性ブラスチックであり爪の表面に接着剤で貼り付ける。接着剤が乾くまで器具を押さえておく必要があるので10から30分間くらい掛かる。また、矯正力は短期間で失われてします。矯正力のベクトルの向きが適切な上方に向き、薄くて軟らかい爪には有効である。

2. 爪の縁に屈曲した器具を掛ける方法としてVHO、巻き爪クリップ (ドクターショール)がある。これを爪の適切な位置に掛ければ有効であるが、爪の縁は弯曲部よりも弱いので、矯正力の強さの調節が難しい。 VHOは爪の側部の縁( lateral nail fold )に掛けるので矯正力のベクトルの向きが上方でなく、中央部に引く事になるのが欠点である。

3. 爪に穴を開ける方法として唯一、マチワイヤがある。マチワイヤは太さが8種類あり、足の母趾から小趾、また、手の指まで適応となる。爪矯正により爪の硬さは変化するがマチワイヤの太さ、穴の位置を変える事で矯正力を調節できる。爪が縦に割れた例でも矯正力のベクトルの向きが細かく調整できる。ただし、マチワイヤの装着には習熟を要し、適切に用いなければ副作用を生じる事があり、また、薬剤など他の補助療法も併用する事が多いため、著者は医師にのみ使用方法を周知している。マチワイヤは矯正力の調整、矯正ベクトルの向き、矯正の持続力が良好で、最も効果が強い。

マチプレート、マチワイヤに関する特許権は多摩メディカル社、古河電工が所有しており、模造品による患者さんの健康被害を防ぐためには製品の品質の維持が必須である。



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